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倒壊家屋救出訓練
令和6年3月17日(日)、枚方寝屋川消防組合枚方消防署において、山田分団ならびに女性分団合同の倒壊家屋救出訓練が枚方消防署高度救助隊の指導の元に行われました。
近年頻発する地震に備えるべく、また災害発災時には迅速に対応できる事と備蓄資機材の取扱い習熟を目的に、倒壊家屋での救出活動、救出後の一次救命処置の実施を重点に訓練が行われました。
訓練に先立ち、枚方寝屋川消防組合枚方消防署警備課 岩田課長より「大災害が起きた際には常設の消防組織だけでは力不足になり、必ずや消防団の力が必要となります。
本日の訓練での能力や技術力を習得してもらい、多いに活躍して頂く事を願う共に、本日参加されていない消防団の皆様方にも技術力や情報の共有を図って頂きたい。」と訓示がありました。
今回の想定では、倒壊した家屋に付近の立木も倒れ覆いかかり、倒木や倒壊家屋の棟木(むなぎ)や母屋(もや)などといったの家屋の骨組み部材が救出の行く手を拒むなか、家屋内の取り残された住民1名を救出し、救出後一次救命処置を施したのち、二次救命処置(救急隊)へ引き継ぐというものです。
訓練項目は、倒木や家屋の部材の切断を想定したチェーンソーの取扱い、油圧ジャッキや厘木(りんぎ)を使った倒壊家屋の対処方、現場における搬送・一次救命処置の3つを柱に、チェーンソーの取扱いと倒壊家屋の対処方を山田分団が、搬送と一次救命処置を女性分団が訓練を行いました。
チェーンソー習熟訓練
チェーンソーの基本を学ぶ
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訓練の初めはチェーンソーによる講義と実践です。
枚方市消防団では、過去に中堅幹部研修でチェーンソーの取扱いに関する説明や始動までの訓練、一部の自主防災訓練で指導等を実施した事はありましたが、定期訓練で生木の切断までを扱った本格的なチェーンソーの訓練は初めての試みであり、団員の多くはチェーンソーの操作を行うことが初めてで、団員の表情にも緊張が走ります。
訓練に使用するチェーンソーは、枚方市防災備蓄倉庫に配備されている一般的なエンジン型のチェーンソーです。
まずは、指導員よりチェーンソーの基本的な構造や名称、燃料の種類やチェーンソーオイルの役割等の説明がありました。
そして安全管理の講話となり、チェーンソーの受傷事故で多くを占める「キックバック現象」の解説や防護服(チャップス)の重要性や仕組みに付いて説明がありました。
その後、ソーチェーンの張り具合やエンジン始動方を習い、いよいよエンジンを始動させます。
キックバック現象とは
切断対象物と接触するソーチェーンの位置や方向を誤るとチェーンソー自体が跳ね上がり、動作しているチェーンソーが操作を行っている者と接触し、大きな事故に繋がりかねない恐ろしい現象です。
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エンジンを始動させたあと、スロットルレバーを握り、ソーチェーンを回転させ、チェーンソーの振動を体感します。
ガイドバーの先端付近から吐出されるチェーンソーオイルの状態を確認し、一旦エンジンを停止させます。
チェーンソーのエンジンを確実に停止させる動作は、常に危険が伴うチェーンソー操作にとって非常に重要な事です。
ソーチェーンとガイドバーとは
ソーチェーンとは、チェーンソーの刃のことであり、ガイドバーといわれる板状の刃のレール(溝)となる部品と組み合わせて使用されます。
刃には左カッターと右カッターが交互に設けられ木材を削る役割のほか、ドライブリングという部分は、チェーンオイルを潤滑する役割があります。
使用する用途によって、条件にあったソーチェーンやガイドバーを選ぶ必要があります。
最初はチェーンソーの動きに戸惑う団員もおりましたが、落ち着いて確実に操作を行なえば、しっかりと制御できると指導がありました。
木材の玉伐り(たまぎり)
いよいよ実際に木材の切断を行ないます。
まずは、指導員から木材の断面に刃をいれる位置や順番の説明を受けて切断の実演を見ます。
説明通り行わずにやみくもに刃を入れると、切断途中でガイドバーが木の内圧により挟まり、切断することはおろかガイドバーさえも抜く事が出来なくなります。
一見簡単そうに見える「玉伐り」ですが、その切断を行おうとする木が、どの様な状態で負荷や重力がかかっているのか、検討しながら切断作業を行わなければならないと指導がありました。
細木で切断を行い、取り扱いに慣れてきたところで、少し太めの生木を使い切断を試みます。
木の直径が大きくなると加わる内圧も大きくなります。
慎重にチェーンソーを操作し、キックバックや挟み込みを起こさない様に切断していきます。
さらに木材の角度を変えてみたり、伐る位置や刃をいれる角度も変え、様々な状況に対応してみます。
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木の種類を変えて伐り比べを行った団員からは「切断はすべて同じと思ってたが、木の種類が違うだけで、伐りやすさ(切断する速さ)が大きく違うのにはびっくりしました。」と驚きの声も聞かれました。
枚方市防災備蓄倉庫配備のチェーンソー
今回の訓練で使用されたチェーンソーは、枚方市防災備蓄倉庫に配備されているものです。
このチェーンソーは、新宮商行製の「SVK346D」型エンジンチェーンソーで、排気量34ccの単気筒2ストロークガソリンエンジンを搭載し、14インチ(約35㎝)のガイドバーを装着しています。
今回の訓練のもうひとつの目的は、防災備蓄倉庫に配備されている資機材を積極的に使用し、操作する者の技術力向上を図るだけではなく、資機材も常に最善の状態を保持・管理し、有事の際には即応能力が十二分に発揮できる様にする事です。
チェーンソーは振動工具の中でも、特に過酷な使用条件で使われる事が多く、メンテナンス作業を怠ると切断能力が著しく低下するだけではなく、エンジンそのものが動かなくなる可能性が非常に高い繊細な資機材です。
今後は刃の目立て(刃を研磨し砥ぐ作業)や各種調整などメンテナンス作業を行なえる団員の育成と作業環境の整備が重要となってきます。
特殊用途のチェーンソーを紹介
ご指導を頂いている高度救助隊の御厚意により、通常は枚方寝屋川消防組合の救助車に搭載され特殊用途に用いられているチェーンソー2機種を展示するとともに構造の説明を受けました。
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これらのチェーンソーは、標準的なチェーンソーと一部構造も異なり、非常に大型で重量もあり特殊な形状で「根切り用チェーンソー」や「救助用チェーンソー」と呼ばれています。
主な用途として、土の中にある樹木の根っこを切り取る事を目的としており、令和6年1月に発生した能登半島地震での活動現場においても能力を発揮する事が出来たと説明がありました。
特殊な刃をもつ根切り用チェーンソー、非常に頑丈な刃を装着し剛性も高く設計されています。
指導員からこの根切り用チェーンソーを使用して、エアクリーナエレメントを取り外し、さらに点火プラグを取り外して燃焼状態やキャブレターの動作状態の説明を受けました。
倒壊家屋からの救出
状況の収集と把握
倒壊家屋へ到着し、まずは現場の状況収集と把握を行います。
訓練では要救助者役の人形が目視できる位置に置かれていますが、反射的な短絡行動をとるのではなく、まずは救助を行う者の安全を確保する事が出来るかを冷静に判断します。
油圧ジャッキの活用
状況の判断が終わると、次に有効な救出方法を模索します。
今回は2トン対応のダルマ型油圧ジャッキを用いる方法としました。
山田分団では以前より油圧ジャッキの取扱習熟に努めており、地域の自主防災訓練等に於いても市民の皆様へ説明を行うなど、災害時における資機材としての有効性を重要視してきました。
普段からの訓練でも油圧ジャッキの操作を行っている団員は、複数台の油圧ジャッキを同時に使用する場合においても、条件が合ったタイミングで昇降させます。
現場指揮者と操作を行う者の相互確認と連携が作業の確実性を高めます。
厘木(りんぎ)の使用
油圧ジャッキで家屋の一部を上昇させたあと、空いた空間に枕となる木材をかませます。
この様な木材を厘木(りんぎ)と呼ばれる事がありますが、形状が空間と合致しない場合や強度不足の木材を使用するなど、やみくもに使用すると再倒壊などを引き起こし危険性が高まります。
そのため、使用する厘木は慎重に選択し、確実に耐荷重しているか慎重に見定めます。
厘木(りんぎ)とは
厘木とは、日常的な使われ方として、重量物を仮置きするために用いられる材木など使用した枕木です。
「りん木」や「輪木」と表記されることが多く、時には「ばん木」と呼ばれることもあります。
一般的に厘木として使用される材木は四角柱の角材ですが、救助用資機材として使用する場合は四角材以外の形状のものもあります。
油圧ジャッキの操作と厘木の挿入を繰り返し、要救助者を救出する事が出来る高さまで上昇させます。
その間、安全管理を怠る事なく、作業に疑問が生じた際には、作業を行う者全員で共有し、必要に応じて作業の中断や作業方法の変更、その他修正等を行います。
厘木の少しのズレも大きな事故に繋がりかねないため、バールなどの資機材を使用して挿入位置の微調整も行います。
要救助者を救出
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要救助者を救出する方法の指導を受けます。
倒壊家屋に救助を行うだけの空間が確保出来たら、要救助者役の人形から隊員・団員に変わり、引き出し方や要救助者への対応方について訓練を行いました。
要救助者の意識レベルの違いや大きな負傷を負っている場合、心肺停止状態など、様々な事象が考えられるなか、それぞれに対応した救出方法を習得しました。
負傷者の搬送と一次救命処置
倒壊家屋からの搬送
倒壊家屋からの救出活動が完了すると、次に負傷者の状況に応じた一次救命処置を行います。
ここからの訓練は、女性分団が担当します。
まずは再倒壊の恐れのある倒壊家屋から安全な場所へ退避するために搬送を行います。
数ある搬送法の中から、今回は毛布を使用した搬送を行いました。
一刻も早く搬送を行わないといけないため、素早く準備を始めます。
その間、指揮者役の団員が、作業指示や救助された人の様子をしっかりと確認します。
負傷者の状況を確認
安全な場所まで移動した後、負傷者役の団員が想定に応じた負傷を負い、それらに対する救命処置を行います。
まずは負傷者の状況を冷静に観察します。
意識や呼吸の有無、からだの状態など素早く確認します。
様々な想定を実践
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負傷者の状況確認が終わると、想定に応じた一次救命処置を行います。
今回は骨折や出血、自発的な呼吸をしていないという想定のもと、日常的に手に入りやすい傘やネクタイ、食品用ラップフィルム等を用いて救命処置を行いました。
倒壊家屋から救出された負傷者は、クラッシュ症候群や胸部打撲等による心臓震盪(しんぞうしんとう)等により心臓が正常な動きではない状態になっている場合も考えられるため、AEDを使った電気ショックも行います。
実際の災害現場においては、複数の事象が重なることが予想されるので、処置を行う優先順位の見極めも重要となってきます。
幾度と条件を変えて繰り返し訓練に努めました。
クラッシュ症候群(挫滅症候群)とは
倒壊家屋の瓦礫や倒れた家具の下敷きになるなど長い時間、身体が挟まれた状態の人を救出した場合、当初は比較的元気そうな状況であったにもかかわらず、突然容態が悪化し最悪死に至ってしまう事があります。
この様な症状をクラッシュ症候群や挫滅(ざめつ)症候群と言われています。
瓦礫等で挫滅した筋肉より発生した毒性の体内物質が、救出により圧迫が開放されると血流によりからだ全身に運ばれ、臓器などに致命的な損害を及ぼし、心臓と腎臓への多臓器不全をもたらして死亡や重篤な症状になるものです。
心臓が心室細動を引き起こしている状態から、AEDによる電気ショックで除細動がなされた場合であっても、一刻も早く医師の診察を受けなければなりません。
訓練閉会式
訓練の閉会式では高度救助隊の指導員による講評が行われました。
その後、枚方消防署 藤田主幹より消防団と常設の消防署との連携の重要性について講話がありました。
山田分団 谷村分団長からは「この訓練で体得したことを体と頭に記憶し、今後の有事の際に備えておくようにしたいと思います。」と技術力を維持していく旨の挨拶がありました。
今回の訓練内容は、初めての取り組みであった事も多く、手慣れない箇所もありましたが、参加した団員は一様に理解は深めれたと手応えを感じておりました。
起こり得る災害に備える
枚方市内には耐震・免震構造となっていない家屋も多く、ひとたび大きな地震が発生すれば多くの家屋が倒壊してしまう事が予想されます。
倒壊した家屋から一刻も早く救出する事が出来るかが『命』を救う大きなカギとなります。
枚方市消防団では、今回の訓練を全ての分団に波及させる事が出来る様に態勢を整え、チェーンソーなどの資機材を操作できる団員を充実させ、大災害時においても対応能力を十二分に発揮できる態勢を鋭意進めてまいります。
末筆となりますが、今回の訓練実施に際して、快く立木の伐倒許可ならびに御提供、用地使用等の御協力を賜りました、尊延寺・穂谷地区の市民の皆様方には、この場をお借りしまして厚く御礼を申し上げます。
※本文中に記載されている役職・階級等は訓練実施日現在のものです。